固定資産税評価額で財産分与すると損する?時価との差に注意
財産分与で家の価値を決めるとき、「固定資産税の通知書に載っている評価額を使えば手っ取り早い」と考える人がいます。しかしこれは損をしかねない選び方です。
固定資産税評価額は実際に売れる価格(時価)より低めに設定されており、おおむね時価の7割程度が目安。
これをそのまま分与の基準にすると、家をもらう側は得をし、代償金を受け取る側は損をする——という偏りが生まれます。
この記事で、なぜ損するのか、どうすればいいのかを整理します。
※本記事は不動産の価格に関する一般的な情報をまとめたものです。財産分与の法的な取り扱いや個別の判断は弁護士に、税務は税理士にご確認ください。
固定資産税評価額とは何か
固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税などを課税するために決めている評価額です。
毎年届く課税明細書に記載されており、手元ですぐ確認できる手軽さがあります。
3年ごとに見直され、土地の形状などによる価値の差もある程度は反映されています。
手軽で公的な数字なので、つい分与の基準に使いたくなります。しかし、この評価額は「税金を計算するための価格」であって、「実際に売買される価格」ではないという点が落とし穴です。
なぜ損をするのか:時価との差
不動産には複数の価格があり、金額の大小はおおむね「時価(実勢価格)> 相続税評価額(路線価)> 固定資産税評価額」の順になります。目安として、固定資産税評価額は時価の約7割、相続税評価額(路線価)は時価の約8割の水準です。
| 価格 | 水準(時価比) | 性格 |
|---|---|---|
| 時価(実勢価格) | 約100% | 実際に売れる価格 |
| 路線価(相続税評価額) | 約80% | 相続税の計算用 |
| 固定資産税評価額 | 約70% | 固定資産税の計算用 |
つまり固定資産税評価額を分与の基準にすると、家の価値を実勢より3割ほど低く見積もることになります。財産分与では、この「低く見積もった価値」を分けることになるため、家を出て代償金を受け取る側は本来より少ない額しか受け取れません。
具体例で見る:3割の差はいくらになる
実勢価格3,000万円の家を、夫が引き継ぎ、妻に代償金を払うケースで考えます(ローンなし、分与割合2分の1と仮定)。
もし固定資産税評価額(時価の約7割=約2,100万円)を基準にすると、妻が受け取る代償金はその半分の約1,050万円。しかし本来の実勢価格3,000万円で計算すれば約1,500万円のはずです。
固定資産税評価額を使っただけで、妻は約450万円も損をする計算になります。家を引き継ぐ夫にとっては、その分だけ有利になります。
どの価格を基準にするかで数百万円単位の差が出ます。手軽さだけで固定資産税評価額を選ぶと、受け取る側が大きく損をしかねません。
では、どの価格を使うべきか
財産分与で家を分ける(片方が引き継いで代償金を払う)場合、基準にすべきは実勢価格(時価)です。家庭裁判所の実務でも、不動産の価値は実勢価格を基準に考えるのが一般的で、不動産会社の査定書を根拠として使います。
ただし、夫婦双方が「固定資産税評価額でいい」と合意するなら、それでも構いません。基準に法律上の決まりはなく、最終的には当事者の合意で決まります。
問題は、片方が損得を理解しないまま安易に合意してしまうことです。だからこそ、まず実勢価格の目安を知ってから判断することが大切です。
実勢価格の調べ方
実勢価格は不動産会社の査定でつかめます。
まず匿名の相場チェックや無料査定でおおよその額を把握し、正式な話し合いでは複数社の査定や訪問査定を使うと説得力が増します。
国土交通省の取引価格情報で近隣の過去の売買事例を調べるのも参考になります。
固定資産税評価額しか手元にない段階でも、「固定資産税評価額 ÷ 0.7」でおおよその時価の見当はつきます。ただしこれはあくまで概算なので、正式な話し合いには査定額を用意するのが安全です。
売却してから分ける選択肢もある
評価額でどうしても揉めそうなら、いっそ家を売却して現金を分けるという選択肢もあります。
売却すれば実際に売れた価格という誰にとっても明確な数字が出るため、評価額をめぐる争いそのものが起きません。
固定資産税評価額か時価かで対立するくらいなら、売って現金を等分する方がすっきり解決することも多いのです。
ただし、どちらかが住み続けたい事情がある場合は売却できません。その場合はやはり評価額を決める必要があり、そこで固定資産税評価額を安易に使わないことが重要になります。
住み続ける側が「固定資産税評価額で」と提案してきたら、それは相手にとって有利な提案かもしれない、と一度立ち止まって考えてみてください。実勢価格の目安を確認してから判断すれば、大きく損をすることは避けられます。
よくある質問
固定資産税評価額を使ってはいけないの?
使ってはいけないわけではありません。
双方が損得を理解した上で合意するなら有効です。
ただし時価より低いため、代償金を受け取る側は不利になります。
安易に選ぶ前に、実勢価格との差を確認しておくことをおすすめします。
建物部分も時価で見るべき?
建物は経年で価値が下がり、実務では固定資産税評価額が参考にされることもあります。
ただし土地部分は時価との差が大きいので、土地は実勢価格、建物は状態を加味して、と分けて考えると実態に近づきます。
判断に迷う場合は不動産会社や弁護士に相談してください。
相手が固定資産税評価額で押してきたら?
自分でも複数社の査定を取り、実勢価格の根拠を示すのが有効です。
査定書という客観的な資料があれば、話し合いの土台になります。
折り合わない場合の対応は弁護士に相談してください。
なぜ固定資産税評価額は低いのか
そもそもなぜ固定資産税評価額は時価より低く設定されているのでしょうか。理由の一つは、地価の変動リスクを考慮しているためです。
評価額の見直しは3年ごとで、その間に地価が下がっても評価額はすぐには変わりません。
もし時価と同水準にしておくと、地価下落時に「実際の価値より高い評価額で課税される」という不公平が生じます。
それを避けるため、あらかじめ低めに設定されているのです。
相続税評価額(路線価)が時価の約8割なのも同様の理由です。1年に一度の改定では急な地価変動を反映しきれないため、納税者に不利にならないよう低めに抑えられています。
つまり、これらの公的な評価額は「課税の公平のために意図的に低くしてある」ものであり、実際の売買価格とは目的が違うのです。
土地と建物で分けて考える
一戸建ての場合、土地と建物では評価の考え方が変わります。
土地は時価と固定資産税評価額の差が大きく、時価で見ないと大きく損をします。
一方、建物は経年で価値が下がっていくため、実務では固定資産税評価額が参考にされることもあります。
マンションの場合は土地と建物が一体で取引されるため、実勢価格(市場での取引価格)で見るのが基本です。
近隣の似た部屋の成約事例が参考になります。
いずれにせよ、土地の価値が大きい戸建てほど、固定資産税評価額を使うことによる損失が大きくなる点は覚えておいてください。
相続の場面でも同じ注意が必要
この「固定資産税評価額は時価より低い」という問題は、離婚だけでなく相続の遺産分割でも同じように起こります。
遺産分割で不動産を分ける際、固定資産税評価額を基準にすると、家を引き継ぐ相続人が有利になり、代償金を受け取る相続人が損をします。
手軽だからと固定資産税評価額を使った結果、後で「損をした」と気づいて揉めるケースは珍しくありません。
離婚でも相続でも、家を分ける場面では「どの価格を基準にするか」で受け取る額が大きく変わります。
手軽な固定資産税評価額に飛びつく前に、実勢価格の目安を必ず確認しておくことが、損を防ぐ最大のポイントです。
相続税の計算そのものは固定資産税評価額や路線価を使いますが、それと分割の基準は別だと理解しておいてください。
まとめ
固定資産税評価額は手軽ですが、時価より3割ほど低いため、財産分与の基準にすると受け取る側が損をしがちです。まずは実勢価格の目安を査定でつかんでから、どの価格を基準にするかを判断してみてください。
